No.24

ロックマンエグゼ

真冬の雪、それに伴う甘さについて
▽内容:雪ではしゃぐ熱斗と熱斗に甘い炎山


                                                                                        

「うぉおおー、見ろよ炎山! 雪だぜ、雪―!」
 開け放った窓から身を乗り出し、雪が降りしきる外を見渡して熱斗が歓喜の声をあげた。
 それまで適温に保たれていた室内は熱斗が窓を開けたことによりバランスを崩し、暖気が急速に外へと逃げ、代わりとばかりに雪混じりの冷たい風が吹き込んでくる。
 ネット警察本部の一室。部屋がないと不便だろうと思った総監が用意してくれた、炎山と熱斗の為の部屋だ。
常駐している職員と違い、二人共部屋がなくてもさほどの不便は感じなかったが、やはりあると便利で気楽ではあるので、有りがたく使わせてもらっている。
炎山はネットセイバーとしての情報収集やデータ解析の作業の為に。熱斗は休憩や仮眠の為に、主に使用していた。
この日はIPCの業務もある炎山のスケジュールに合わせて、検査とテストと会議を一気にやってしまおうという日。
思いの外、順調に予定が進み、現在は会議の前の休憩中。
 炎山は終わった検査結果とテスト結果を自分なりに考える為、熱斗は休憩の為に与えられたこの部屋で寛いでいたところ。
 朝からぱらついていた雨は、どうやらいつの間にか雪に変わっていたらしい。
 プリントアウトされた検査結果に目を通していた炎山は、一気に下がった室温と、吹き込む冷風に炎山は眉を寄せて窓の方を見る。
 熱斗は相変わらず「うおー」と何度となく意味のない声を上げながら、窓の外の景色に釘付けになっていた。
「何が嬉しいんだ。窓を閉めろ、熱斗。寒い」
 呆れを混ぜた声で言えば、振り返った熱斗が歓喜の表情のままで的外れな返事をしてくる。
「なぁなぁ炎山っ、雪合戦しよーぜ、雪合戦!」
「………はぁ?」
 答えになってない言葉に、炎山は手にした書類を落としそうになりながら、体ごと熱斗の方へ向き直った。
 だが熱斗は炎山の様子など全く意に介さずにわくわくとした様子で窓の外を示してみせる。
「このまんまだと、珍しく積もるぞきっと。滅多にない機会なんだから、遊ばなきゃ損だろー?」
「なんでオレがそんなこと……」
「なんだよ炎山、やりたくないのか?」
「当たり前だっ」
 げっそりと拒否を示せば、熱斗は心底不思議そうな顔をして炎山の座るソファの方へ歩いてくる。
 炎山にとっては、そこでどうして不思議そうになるのかが、そもそも理解不能だが、熱斗の方は炎山がやりたくないことが理解不能らしい。
 炎山の隣に座ると、炎山の方へ身を乗り出すようにして不満を口にした。
「なんでだよー。一緒にやろうぜ、雪合戦! 勿体ないじゃんか」
「勿体無くない。そんなに雪で遊びたいなら、シャーロにでも行って来い」
「ばっか、ニホンで雪、ってのがいいんじゃんか。シャーロじゃ寒すぎて雪合戦する気になんないよ」
「……オレはニホンでもならないがな」
 どうやら熱斗は、「こんな雪を見たら雪合戦したがるのは当然」という前提の下に話をしているらしく、炎山の否定は素通りして「なんで?」になるらしい。
 いつものことと言えばそうなのだが……これを説き伏せるのは用意ではないと、炎山は胸中で溜息をついた。
「さっき、今日丸一日はスケジュール開けてあるって言ってただろ? 皆呼んどくからさ、会議終わったら雪合戦しようなっ。決まりー!」
 そうこうする内に、炎山の意見などスッパリ無視して熱斗は勝手に決めてしまっている。
 あまつさえ、すぐにPETを取り出して
「ってなワケだから、ロックマン。皆に連絡よろしくぅ!」
 満面の笑みでそんな指示をロックマンへ下してしまった。
 炎山が止める間もない。
『……熱斗くん………』
 さすがのロックマンも苦笑して呆れている様子。
「ちょっと待て、熱斗。誰も参加するとは……っ」
 熱斗の思考回路の不明さに虚を突かれている間にも進んでいく事態に慌てて炎山が声を上げるが、時は既に遅く、呆れながらもロックマンはオペレータの願いに応えるべく電脳世界へ旅立ってしまう。
 間に合わなかったことを悟り、炎山は額に手をあてて、がっくりと肩を落とした。
「………少しは人の話を聞け、熱斗……」
 責めるというよりは、疲れきった後の愚痴のような口調。
 それにも熱斗は悪びれることなく、炎山の落ちた肩を力任せに叩いてみせる。
「まーまー、炎山。子供は風の子、元気の子! たまには外で遊ぼうぜ!」
 やはり、全く答えにもフォローにもなってない台詞を言いながら。
 熱斗を説き伏せることは、最早不可能だと判断した炎山は、肩を落とすのを通り越して己の膝に肘をのせて床を見つめる態勢に。その背からは濃い疲労が見て取れた。
 傍らに置いてあったPETからは、さすがに見かねたのか気遣う声が。
『……炎山さま、ロックマンを止めて参りますか……?』
 バイザーで顔の殆どを覆った己のナビの言葉に、炎山は緩く首を振って否定を返す。
「いや、いい。……どうせ、何を言ったところで聞かないさ、あいつらは」
『はあ……』
 確かにその通りだろうオペレータの言葉に、ブルースは曖昧に頷くしかない。
 だが、諦めきり、疲れきった炎山の声はしかし、どことなく笑みも含むもの。
「く~ぅ、楽しみ~! 同じチームになれるといいな、炎山っ」
 人の話を全くきかない好敵手兼親友に期待に満ちた笑みを向けられれば、下を向いたままの炎山の口元には、今度こそはっきりと笑みが浮かぶ。
雪合戦など本気でやりたくはないし、寒いし面倒だし何故オレがこんなことを、と思いはするのだが。
 結局は、今まで同様、付き合わされるハメになるわけで。
今までも炎山は、こういった場面で熱斗に勝てた例がない。
けれども、いつも文句を言いながら、呆れながら―――どこかで悪い気がしない己がいるこの不可思議も、炎山にとっては慣れてしまった感覚。
「そうだな……」
そして炎山は、やる気のない声で返答しながらも柔らかな笑みを浮かべるオペレータに怪訝の表情を向けてくるブルースへと、小声で指示を出す。
熱斗には聞こえないように、ひっそりと。
「ブルース、悪いが会議が終わるまでに、雪合戦の公式ルールを調べておいてくれ」
『……は……?』
 PETの中のブルースは、一瞬だけ戸惑った表情を見せたが、すぐに気を取り直していつもの無表情へと戻った。
『了解しました、炎山様』
 電脳世界へと旅立つナビを見送ってから、来るべき雪合戦に供えて色々と期待を膨らませている熱斗を余所に、再び検査結果の書類を取り直す。
 これで不安は少しなくなった、と思いながら。
 なにしろ伊集院炎山、同い年の子供と遊ぶことなど殆どなかった身。
 特に、それなりの人数が必要な上に、実行できる条件が厳しいこの《雪合戦》というものを、やったことがなかった。
故に、朧げな知識ならば持っていても、きちんとしたルールは知らない。
やるからには完璧を目指す伊集院炎山は、雪合戦においても好敵手兼親友に遅れを取らぬ為、準備を怠らないのだった。

 このまま順調に進めば、会議は遅くとも午後二時半には終わるだろう。
 雪合戦が早くしたくてたまらない熱斗は、その様子を隠すこともしないだろうから、熱斗の期待に満ちた目に負けて、大人達が苦笑と共に会議を早く切り上げる可能性も考えられる。
 ネット警察も、科学省も、何故だか光熱斗には甘いのだ。
 扱い的には炎山も子供だから同じだが、本人がそもそも年齢に甘えることを良しとしないので、大人たちが甘えさせる機会もない。
 ついでに―――大人と同等たろうとするせいだけでもなく、かく言う炎山本人もまた、熱斗に甘いことを、薄々自覚している。

 熱斗待望の雪合戦が始まるまで、約二時間。
 急に呼び出された熱斗の友人達も含めて、それはそれは馬鹿らしくも楽しげな雪合戦になるのだろう。
 以前ならば一笑に付すだけで、参加するなど絶対に有り得なかったその予測を、どこかで楽しみにしている自分を感じながら、予測を現実のものとする為、早く己に課せられた義務を終わらせるべく、炎山は書類に急ぎ、目を通していった。




#炎熱

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