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二次創作小説置き場
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No.21
ロックマンエグゼ
2025.12.26 No.21
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そろそろと顔の前に持った漫画雑誌をずらして、こっそりとその向こう側を覗き見る。
上半分だけの視界の中、見えたものは大きなモニタやタワー型のパソコンばかりで、目的のものはそれらの隙間から少しばかり赤色を覗かせるだけ。
顔も見れないなんて、つまらないことこの上ない。
雑誌のかげでこっそりと溜息をつき、熱斗は器用に雑誌を顔の上にのせたまま、パタリと座っていたソファーへ倒れた。
ぱふん、と軽く空気の抜ける音がする。
柔らかく上質なソファーの感触にもだいぶ慣れた。
それくらいには、熱斗はここを訪れている。
IPC本社、副社長室。
本当なら、小学生で部外者の熱斗がこんな場所においそれと入れるわけはないのだけれども。
業務時間外ということ、副社長の友人であること、ネットセイバーとして身分もしっかりしてる上、IPCとは縁の深い科学省の代表的科学者の息子であること。
そして、当の副社長様曰く
「こいつが何を見たところで理解できるわけでもないから、構わん」
ということで、夕方の5時半以降ならばほぼ顔パスで通れることになっている。
最語の理由に関しては、熱斗としては非常に異論を唱えたいところではあるのだが……それでここへの出入りが出来なくなるのは困るので、ぐっと我慢してみた。
自分だって、もう6年生だ。炎山の生意気な言葉にいちいち反応してられるか。
などと、胸中で自分に言い聞かせて。
今年の熱斗の目標は、ひとえに「炎山に勝つ」だ。
出会って以降、それはずっと熱斗の目標ではあるのだけれども。ネットバトルで勝つとか、そういうことではなくて。
もっと違った部分で、炎山に負けてると思ってしまうから。
例えば今。
業務時間を過ぎても、IPC副社長である伊集院炎山は仕事中。
それでも構わないから待つと言ったのは熱斗で。
だからこそ、こうして大人しく炎山の仕事が終わるのを待っているわけだけれども。
熱斗がやってきてから、もう1時間半が経過している。
あまり気の長くない熱斗にしては、大変に頑張って待った方だ。
そろそろ我慢の限界が近い。
「飽きた~!」
と叫んでしまいたい。
「早くしろよ炎山! もうオレ、腹へって死にそう」
と言ってしまいたい。
秘書さんが出してくれたケーキとお茶は、出されて10分もしないうちになくなってしまった。
育ち盛りの小学生の胃袋は、そんなものでは満足してはくれない。
それでも空腹をこらえ、退屈をこらえ、じっと待ってるのは熱斗の意地に他ならない。
きっと炎山なら、こんなことで音を上げたりしないはず。
ここで素直に喚いてしまったら、なんだか炎山に負けてしまう気がするのだ。
別に炎山が今、どっちが先に音を上げるか勝負をしかけてきたとか、そういうことではなく。
もっと別のことが要因になっている。
『炎山くんって、大人よねー』
と言ったメイルの言葉だったり。
『しっかりした子ねぇ。小学生とは思えないわ。やっぱり、副社長さんだからかしら?』
と感心するママの言葉だったり。
今まで特に気にしたことはなかったのだけれど、言われてみるとそんな気もした。
同い年で。
同じネットバトラーで。
同じネットセイバーで。
……なのに、熱斗はよく『子供ねぇ』とか『落ち着きがない』とか言われているのに、炎山はこの扱いだ。
不公平だと、その時は思ったりもした。
けれど実際、炎山は凄いのだろうと思う。
ここのところ、一緒にいるとそんなことばかりを気にしている。
あんなの、嫌味なだけだ! と、切り捨ててしまえないでいる。
オレだって、同い年なんだから。
そう思って、なんとか炎山に負けないように大人になろうと思っているのだ。
とはいえ、退屈と空腹の二重攻撃にはこれ以上耐え切れそうもないのが実のところ。
こんな時、一番の遊び相手で話相手である筈のロックマンは、現在ブルースとお出かけ中だ。
仕事や事件抜きで会える機会のない二人だけに、こういう時くらいは二人で遊んでも罰は当らないだろう。
熱斗なりに、気を使っているのだ。
ブルースからは冷たい抗議の視線をもらったが、却下すると思っていた炎山もまたブルースに「行って来い」と告げたせいか、表向きは渋々といった体で出かけていった。
義務や使命感が強いだけで、ブルースとてロックマンと共にいることが嫌なわけではないことを、熱斗も炎山も知っている。
そんなわけで。
現在、互いのナビはオペレータのささやかな心遣いによって仲良くお出かけ中。
結果、熱斗は一人で暇を持て余し、炎山の仕事は僅かとは言え、遅れる結果となっていた。
寝転がったまま、熱斗は掌で胃のあたりをさする。
空腹はどんどんと増し、いましも大きな音をならしそうだ。
それにつまらない。
漫画雑誌も読んでしまった。PETの中にロックマンはいない。
他のゲームをするという手もあったけれど、何故だか気が進まない。
……一人でやっても面白くないと、知ってしまっているからかもしれない。
持ってきたゲームは、炎山とやろうと思って持ってきたものだ。
それを一人でやってもつまらない。
雑誌を顔に載せたまま、その影で熱斗は小さく「う~」唸る。
早く終われと、何度も念じる。
パソコンに阻まれてこちらから顔も見えないなんて本当につまらない。
胸中で呟く度に、ふつふつと怒りが募っていく。
こんなに我慢しているのに、炎山はきっと涼しい顔をしているんだろうと思ったら、簡単に我慢の糸は切れた。
もうダメだ。
勝ち負けなんて二の次、とにかく文句を言ってやろうと、ソファから勢いよく起き上がろうとしたその瞬間。
「限界か? ……1時間半か。……まぁ、よくもった方だな」
などという、どこか笑いを含んだ声が熱斗の耳に飛び込んでくる。
「なんだとぉー!?」
たまらず、顔の上に乗っていた雑誌を跳ね飛ばして起き上がった。
「誰が限界だっ。全然へーきだぜ!」
見れば、炎山はいつの間にかパソコンに囲まれた机を離れて、ソファの近くまで来ている。
そして熱斗の方を面白そうに見下ろしているのだ。
「退屈してたんだろう?」
どうやら、熱斗の様子を少しばかり前から伺っていたらしい。
こっちは待ちくたびれていたというのに。
「べ、別にっ」
強がりを言って、ふいとそっぽを向けば、呆れたような溜息の気配。
いつもなら思うと同時に口に出している熱斗だ。退屈したらそう言うし、指摘されれば頷いて、逆に炎山へ文句を言っていただろう。
だが今日は、炎山に負けまいと意地になっていたことや、ここまで待たされて腹が立っていたこともあってか、そんな強がりを口にしてしまった。
言ってしまってから、また炎山が仕事に戻ったらどうしようと。という不安がやってくる。
いい加減、空腹も勿論だが退屈なのも限界だ。
けれど、ここまで意地を張ってしまった手前、素直には認めにくいものがある。
どうしよう。と思いながらも、どちらの態度もとりきれないでいる熱斗に、すいと炎山が手を差し出してくる。
「……?」
怪訝に思って、思わずその掌をじっと見た。
見たが、ずっと手がそのままなので、視線を上げて炎山の顔へ移す。
随分とマヌケな顔をしていたかもしれない。ぽかんと、炎山の顔を見ていたのだから。
炎山は相変わらず小学生にしては表情が少なくて、日本人離れした青い目は落ち着いた色をしているのだけれども。
「まぁいい。…オレも、退屈していた」
変わらない筈の表情を笑みだと思ったのは、何故だろう?
そして炎山は、手を差し出したまま言った。
「夕飯は、何が食べたい? 熱斗」
「ゆうはん……」
言われたことを繰り返して、ようやく頭がそれを理解する。
してしまえば、後は早かった。
先ほどまでのわだかまりだとか意地だとかは、あっという間に霧散する。
「中華! ぜってー中華!」
勢いこんで希望を述べれば、返ってくるのはやはり呆れた眼差しなのだけれど。
「分かった。……行くぞ」
差し出された手に、己の手を重ねれば軽く握られて、促される。
その表情は、間違いなく笑みだったから。
熱斗も自然とにへらと顔を緩ませて、炎山についていく。
別に、中華につられたワケじゃないからなっ!
と、胸中でだけ言い訳をしながら。
だって、炎山も『退屈していた』と言ったのだ。
それならきっと、おあいこのはず。
オレだってもう炎山に負けないくらいオトナなんだから。
などと、口に出したら炎山からもメイルからもママからも、半眼を向けられそうなことを思いながら。
今はともかく、目の前の中華と炎山で、満足している様子の熱斗だった。
#炎熱